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2013年8月3日 河北新報 武田真一 Part2
東日本大震災は、歴史上の記録に残る震災です。「河北新報」の編集局次長の武田さんは、犠牲者が何人、住宅被害が何棟といったところで、まとめとしての数字からは共感は生まれないと言っています。だから「忘れないこと」を復興の力とするには、個別の出来事に寄り添った共感が必要なのです。
歴史上記録に残る震災となった東日本大震災
東日本大震災では約1万9,000人の死者と行方不明者が出ました。関連死認定された人が2,300人。全半壊の建物が40万棟。最大被災地の石巻に限ってみても、関連死含めて犠牲者が3,600人。行方不明者も含めると3,960人。住宅の全半壊が3万3,000棟。節目ごとに、こういう数字が記録されて、伝えられます。
おそらくこれからも、東日本大震災の記録というのは、こういう数字の記録によって、記憶されて語り継がれていくことになるでしょう。その点でこの震災が忘れられるなどということはありえない。歴史上記録に残る震災になってしまったということです。
しかし、そういう捉え方は、震災を抽象化し、輪郭として理解するレベルにとどまってしまいかねません。言うまでもなく震災を忘れない、風化させないということは、不幸にして犠牲になった人たち、その人たちへの鎮魂のためであり、被災して生活環境が大きく変わってしまった人たちの今とこれからの行く末を思うため、です。
その鎮魂と思いの前提になるのは、先ほど挙げた数字ではなくて、やはり具体的な共感、そこからしか生まれない。犠牲者の死も、避難生活を送る人たちの生も、何万何十万のうちの一つではなくて、それぞれ特別な事情を背負った死であり、生である。特別な事情を背負った死と生と、具体的に向き合って、鎮魂と復旧復興につなげていく。おそらくそれが「忘れない」ということの本質なんだろうと、私は思っています。
1人ひとりの出来事に寄り添ってこそ共感が生まれる
まとめとしての数字からは共感は生まれない。具体的な被災地域にある一つ一つの出来事、一人一人の姿に接することで、より震災の被災というものが、現実的なものになっていく。一人一人の姿、声に接することで、その共感が力を持っていく。一つ一つの出来事と、一人一人の声と姿に目を凝らすこと。震災復興に関わるすべての活動というのは、そこからスタートしなければいけないんだろう、ということです。
ボランティアという関わり方は、まさに実は、個別の出来事に寄り添うためのアプローチであり、具体的に事柄から共感し続けるため、「忘れない」ための大事なアプローチである。震災ボランティアの意味は、そういうふうにまず位置づけていいんだろうなと思います。
我々の紙面作りも、もちろん十分ではありませんが、具体的な事柄から一つ一つの声と姿から共感を引き出して、それを鎮魂と復興再生の力につなげていくことを心がけています。
週に1度掲載している「記憶 あなたを忘れない」。亡くなった方々がどういう方々で、その方々の死を周りの方々はどういうふうに受け止めていて、その意志を継いでどう動こうとしているのか。そこまで広げて掘り下げて、死を見つめていこうということです。
「被災者いま」はわずか30行程度の非常に短い記事ですが、顔写真をつけて、当時この方々が体験したこと、それから今困っていること、ないしは喜んでいること、そういうことを具体的に話し言葉で紹介していこうと、毎日2人ずつ掲載しています。先ほど言った具体個別の事案から共感を持ってもらい、忘れないということに結びつけてもらおうという紙面作りを目指しています。
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