高額時給に目がくらんで、「毎日入ります」といって、意気揚々とバイト先への総合福祉センターへ行った河内さん。ところが、ガイドヘルパーの仕事が在宅障害者の入浴介助と聞いた途端に、そのやる気も雲散霧消してしまいます。そして、茶髪の大学生がアウェイ感満載で、現場へ行くのですが、そこで家の人に「若い人が来てくれた」と大歓迎されてしまって…。辞めたいのに、辞められなくなります。
もくじ
2014年5月13日 Edge 河内崇典 Part5
高額時給につられて仕事に行ってみたら…
なぜなら、いやしい僕は「毎日入ります」って言ってた。しかも誰にも言わんといてほしいと。だって時給そんなんいい仕事取られたらややこしいじゃないですか。そんなもん接戦やと思って、取り合いやと思って、その2人で一緒に入るっていうことをガンガン言うて。
だから総合福祉センターでは、やたらと茶髪の大学生のお兄ちゃんがやる気あって毎日来るって言うてるで。ザワザワいうんですよ。鳴りものいりが来たみたいな。会ったときも、「君か、やる気のある子は」言われて「はい」みたいな。
言われたときがその脳性麻痺の方の入浴介護で、「えっ」ていう話で。そこからなんか在宅なので、施設ではなくて、家で生活をお母さんと障害を持った人でしていると。今まではお父さんと3人で暮らしていたけど、お父さんが高齢で亡くなって、お母さん1人ではその本人をお風呂に入れることができなくなって。それをガイドヘルパー制度というのを使ってやってもらいたいっていう話だったんです。
けど何言うてるか分からんことと、とりあえず間違えた場に来てしまったっていうことだけは頭の中でワンワン鳴り響いて。リフト車っていう、今なんか高齢者の方が乗ってる車あるじゃないですか。デイサービスとかで。その車に乗せられて、その家まで行く間の道中っていうのは、完全にドナドナ状態ですね。おれこのままどこに連れて行かれるんだろう、みたいだったのを覚えています。
行ったら指導員さんが「この人なので一緒に裸になってお風呂に入ってもらって、細かいことは本人さんに聞いてもらったら」みたいな。見よう見まねでその人が洗っているのを見て、次の週から自分たちが入るっていうことになってるわけですよ。やる気満々の僕たちは、なんか最初は「月曜日だけでも」って言うてたところが、月水金ぐらで入る言うて。
もうだから自分は時給計算とバイク買う値段の計算出してたんで、何日何日間入ったらいくらなるみたいなんで。時給は1,410円だったんですよ。1,410円ですよ。お風呂を介護で入って。最後にお母さんが「あんたらみたいな子が来てくれると思えへんかった、うれしいわ」「いや、お母さん、そんなんちゃいます。もう本当思った通りなんです」っていう。「またこの子謙遜しちゃって」みたいな、もうずっと勘違いされて。
やめたくても、歓迎されすぎてやめられない
結局その高校のときの連れと「はよ辞める言えや、辞める、お前から言えや、間違えたん、お前が誘ったんや」、「いやいや、ほんなもんすぐ辞める言えれるか」みたいな。月曜日から始まるんだったんだけれども、電話で断ることも可能だったんです。
みんな電話で断れるほどの鬼になれます。こんなにお母さんが最後うれしくて「この子に来てくれるような学生なんかいてると思わなかった」みたいな言うてくれていた、深々と「よろしくお願いします」って下げたお母さんを、「もしもし」みたいな「おれちょっと間違えてたからやる気ないねん」みたいなこと言えないじゃないですか。言えないですよね。
だから会って謝ろうと、会ってちゃんと正直に正体明かそうと。超偽善者ですと。絶対僕がやったら駄目です、というようなことまで言えば許してくれるんじゃないかなみたいな。そのときに家まで行って、6時ですよ。小競り合いですよね。高校のときの連れとは、お前が言えや、お前が言えやの小競り合いです。結局じゃんけんして僕が負けて僕が「辞めます」っていうことを言わなければならなくなったんですよ。
そのときにインターホンを鳴らして、「すいません、こんにちは河内です」と。「入っといで」玄関の向こうから聞こえてくるわけです。「いや、実は今日はここで」みたいな、「何言うてんの、入っておいで」みたいな、「遠慮して」みたいな、「いやいや今日はここで」もう絶対超えたくない線みたいな。
アウェイとホームみたいなぐらいの大きな差を感じて、この敷居をまたいだら僕はすごく時間がかかるんじゃないかなってことで、玄関口で終わりたいなと思ってたんです。でも結局許されることなく、1分間ぐらいの攻防も無駄に終わり、結局入らざるを得なかったんですよ。
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