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2013年6月11日 TEDIC 門馬優 Part8
東日本大震災後の石巻で教育系のNPOを立ち上げた門馬さん。東京では大学院生、週末は石巻へ通ってボランティアの日々が続きました。そんな状況でしたが、大学院の制度もあって、埼玉県の高校で教鞭をとることになりました。そこで見たものは、荒れに荒れていた高校生の姿でした。門馬さんは、その様子から子どもたちが犠牲になっている今の教育の矛盾を垣間見ることになります。
非常勤先の埼玉県の高校では驚くことばかりでした
時を同じくして、僕は東京にゴールデンウィーク明けに戻ったのですが、大学院の制度もあって、学校で非常勤講師をやらなければいけなくなりました。最初に僕が行ったのは、埼玉県のある高校です。
ちなみに時間時期的には、TEDICを立ち上げて東京から宮城に通うというのを週末にやりながら、同時並行で教員生活をやっているというイメージです。平日は大学院生活と教員生活、そして土日は石巻に行く。それをずっとやっているイメージです。どんな学校だったかというと、これまたすごい学校で。3年たつと生徒が一学年3分の1になってしまう。240人入学してきて、卒業していくときには80人になっているような、そんな高校だったのです。
やめた生徒は、正門の前で入隊式。これ意味分かりますか。OB・OGが迎えに来るのです。「あいつやめたらしいぞ」「じゃあ、迎えに行くか」って。ブーンと来て、正門の前で「これでおまえも仲間だな」「先輩、よろしくお願いします」みたいな感じです。
そして、その先輩たちが鉄パイプを片手にお礼参りにやってきます。文化祭をやると、「俺はあの担任のせいで人生狂わされたんだよ」といって、その担任のクラスの出し物、僕がいたときはお化け屋敷をその先生の学級がやっていたのですが、お化け屋敷に行って鉄パイプでお化け退治をしていました。本当にリアルお化け退治です。そこにパトカーがウィーンと入ってきて、わーっと捕まえにいって。そんな感じです。そんな学校があるのです。
少し毛色が違いますけど、「先生、助けて。お父さんに殺される」と職員室の電話が鳴る。駆け付けたら、お父さんが日本酒の1升瓶を片手に持って、生徒に殴りかかろうとしているような状況。などなど、そんな学校に行ったのです。死ぬかと思いました。
先生も生徒も抱えきれない教育の矛盾
でも、この学校にいてすごく感じたことは、一人一人の生徒と話をしてみるといろいろなことを抱えているわけです。例えば、鉄パイプ片手にお礼参りに来た卒業生と、なぜかかき氷を一緒につつきながらしゃべるというシチュエーションがありました。よく分からないですけど。「随分派手に暴れてるじゃん」みたいな話をしたら、「いや、でも俺はあの先公だけは許せないんですよ」と言うわけです。
「俺も先公だ」と思いながら話をしていて。よくよく話を聞いていると、やめさせられた理由みたいな話になってくるわけです。「何でやめさせられたの?」みたいな。そしたらその子が言うには、その子にも原因があるんですけど、その子の家はお母さんしかいなくて。そのお母さんも体に障害を持ってらっしゃって、働くことができないのです。結論から言うと。自分には下に兄弟がいて、妹と弟と、これからやっと1歳を迎えるような赤ちゃんがいる。お父さんはまた別な人だけど、という状態でした。
自分がバイトをして、ファミマに行って夜勤をして何とか金を稼がないと生きていけない。夜勤をするとどうなるかというと、すごくげっそりした状態で学校に来る。当然、授業なんか起きられるわけがない。でも、先生の立場になってみると、起こさざるを得ないのです。寝ていることを許してしまうと、ほかの生徒も「寝ていいんだ」と思うわけです。許したということは、そういうサインだと受け取るので。だから先生もいろいろ起こすわけです。
出席簿みたいなやつで裏拳をしたりして。「おい、起きろ。バン」とやったりするわけです。そういうやりとりがあるうちに、ついにその生徒のほうが我慢できなくなって手を上げてしまって、それで退学になったという話をしてくれました。ほかにもいろいろな生徒がいます。
先生も生徒も救われない「学校制度」という病理
その子たちに共通しているのは、表現の仕方は良くなかったと思うのです。人に手を上げてしまったり、物を壊してしまったり、鉄パイプでお礼参りに来ていることも、許されることではないと思うのです。でも、その子たちが全部が全部悪いかと言われたら、そんなことはないという気がしています。我慢しなければいけないことはもちろんあると思います。でも、自分がその極限状態に追い込まれたときに、我慢できるかと言われたら、俺も結構難しいんじゃないかなと思うのです。
本当に明日の生活がどうなるか分からない、借金取りに追われている、そんな状態で何とか学校に頑張って出て、でも耐えられなくて寝てしまって、怒られてみたいな。おかしくなってしまいますよね。それは子供たちは悪くないと思うのです。原因があるところもあると思いますけど。そうやってやめさせられていく子供たちがいる。
でも、これは子供の問題というより、もしかしたら社会の問題かもしれないし、大人の側の問題かもしれないし、もしかしたら、それでも注意せざるを得ない先生を、そういう状況に置いてしまっている学校制度の問題なのかもしれないし。それの犠牲になっているのが子供なのではないかと、そのとき思ったのです。
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