4.震災から学ぶ「むすび塾」

河北新報

2013年8月3日 河北新報 武田真一 Part4

東日本大震災が残した教訓を今後どのように活用すべきか。武田さんは、震災前までに河北新報が行ってきた地震啓発報道は3割の人にしか届いていなかったという反省から、記事を書くだけでなく地域、学校、企業へと出向き「むすび塾」というワークショップを始めました。

教訓を活かし、救える命を救うこと

さらに、震災が残した教訓の中で一番大切なものは何か、について考えてみましょう。同じような災害が起きたときに、犠牲を一人でも少なくする。救える命をきちんと救うことと。それがやはり、一番大切なことでしょう。

河北新報は昨年から「いのちと地域を守る」というキャンペーンを、紙面で展開しています。実は、震災が起きる前も、我々は同じような呼びかけを紙面で続けていました。宮城県沖地震が99%の確率で起きることに備え、「皆さん、備えましょう」と紙面では相当の力を入れて防災・減災報道を展開してきたつもりです。

しかし、今回震災が起きて、我々の発行地域で1万9,000人近い人たちが犠牲になってしまった。宮城に限っても1万2,000人。我々はこれを深刻に受け止めています。「犠牲を出さない」という決意に欠けた、ただの呼びかけにとどまっていたのではないか、という反省です。

はっきり言って、我々の防災・減災報道は役に立たなかった。震災の年、2011年の8月に被災者100人にアンケートをとったところ、「河北新報社の地震啓発報道の記事は避難に役立ちましたか」という質問に「役に立った」と答えた人は3割弱でした。7割以上の人が「役に立たなかった」と答えています。

「いのちと地域を守る」キャンペーンは、そうした反省に基づいて始めたものです。一番大切な教訓は、犠牲を一人でも少なくすること、救える命はちゃんと救うこと、そういうことだと考えて取り組んでいます。

地域に入り込んで教訓を伝える

我々から、地域の中に入り込んで、学校に入り込んで、企業に入り込んで、病院に入り込んで、その場に必要な避難のあり方、普段から気をつけておく防災のあり方を専門家と一緒に考える、「むすび塾」と名付けたワークショップを新たに仕掛けました。

これまでそのワークショップを23回開いて、紙面で紹介しています。地元だけではなくて、こちらの被災者を伴って、南海トラフの地震が予想される高知県、愛知県、千葉県、東京都、それから日本海側でも、前に津波被災があった秋田県、そういうところに出かけて行って、一緒にその場に必要な実践的な防災を考えましょうと呼びかけています。

そのほかにも、子どもとおばあちゃん、おじいちゃんが一緒に、実際に次の地震が来て、津波が想定されるような地震が来た時に、どこに逃げるかを実際に訓練してもらう「個別避難訓練」というようなものも仕掛けています。

これで正解ということはありません。これで十分ということもない。まだまだ試行錯誤ですが、今回の震災を経験した報道機関として、取り組みをずっと続け、次なる被災地になるであろう所に教訓を発信していく義務があるという覚悟でやっています。ある程度事態が落ち着いた今、あの日をじっと省みる時間が少しずつできてきた今こそ、犠牲に基づいた教訓を共有して発信していく必要があります。

自分のために、家族のために、暮らす地域のために、震災と復興過程を見つめて、犠牲を出さないためには何をすべきか考える。復旧復興過程が、よりスムーズに進むために、何をするべきかを突き詰めて考え、行動していく。我々報道機関に限らず、震災を出発点に活動する、すべての人たち、ないしはすべての組織の人たちは、そういう確認と覚悟が求められている、と思います。

やっさん

東日本大震災の仮設住宅支援、復興起業家育成に関わってきました。大学では、震災復興を考える講座やワークショップを実施しています。ここでは、復興ボランティア学講座の記録をまてめて、公開しています。

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やっさん

東日本大震災の仮設住宅支援や復興起業家育成に10年間携わってきました。現在は震災復興に関する講座やワークショップを実施しています。ここでは、復興ボランティア学講座の記録をまとめて公開しています。

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