10.非常時にこそ、人は在り方を見つめ直す

河北新報

2013年8月3日 河北新報 武田真一 Part10

東日本大震災のような非常な局面では、人は自分の在り方を見つめ直すことになります。河北新報は「普通に生きる」人たちが、震災という局面の中で仕事の意味と向きあい、発した言葉を記録しています。武田さん自身も、この震災をきっかけに自分の仕事の意味を見つけたと言っています。

自分たちがやらなければ誰もやらない

河北新報は、震災後、様々な人たちの言葉を記録しています。自分の仕事の意味ということについて、普通に生きる人たちが、素敵な言葉をいっぱい残しています。
例えば「自分たちがやらなければ誰もやらない仕事です。しっかりとこれを務めていきます」と言ったのは葬儀屋さん。遺体をきちんと遺族のもとにきれいにしてお返ししましょうということに徹した。きれいごとと聞く方々もいるでしょうし、そういう部分も、もしかしたらあるのかもしれませんが、やはり自分の仕事の意味というのを、こういう機会にきちんと捉えて、向き合った人だからこそ、出てくる言葉なのでしょう。

喜んでもらえるから自分の仕事がある

「喜んでもらえるからうれしい、ということを初めて実感できた」。これは仙台フィルのクラリネット奏者の言葉です。仙台フィルは震災後に避難所を回り、ボランティアで演奏活動を展開しました。その方々が、自分たちが演奏するということの意味を活動を通して見つめ直した。
演奏してお金をもらうことが仕事だけど、心のどこかでギャラがなくてもいいよという気持ちもあった。実際には理想の話だったと思っていたんだけども、お金をもらうからじゃなくて、喜んでもらえるから自分の仕事がある、うれしんだということを初めて実感できましたということを、この方が我々のインタビューに対して言っています。
同じように別の方ですけども、慰問したときに避難所の平場で向き合って演奏したら、聞いていた避難者の方から「やっと私たちのところへ降りてきてくれましたね」という言葉を言われて、はっとしたというのです。ステージの上にいて私たちに聴かせるというような姿勢で接してはいませんでしたか、というふうに問いかけられたとこの人は受け止めたそうです。被災地と関わったことから、自分の普段の仕事の姿勢、意味を見つめ直したということです。

子どもたちを元気づけたい

「何度もやめようと思ったけど、今は死ぬまで続けるつもりです」。これは仙台の本屋さんの言葉です。一冊だけ入荷した少年ジャンプを震災後の混乱の中で提供し、子どもたちに「漫画ありますよ、読んでいってください」と呼びかけた。新刊漫画を回し読みさせて、子どもたちに勇気を与えた。「子どもたちを元気づけたい一心だった」と本屋さんは言っています。本を店頭に並べて売る。言ってみればそれだけの仕事ですけれども、自分が扱っているものが、非常時にどれだけ力になるのかを、この方はこの機会にやはり発見したということになります。

読者の命に関わる報道という仕事

震災のような混乱、社会と個人の関わりを見つめなおすことがせまられる局面、つまり非常事態におかれた局面では、みんなが自分を見つめ直します。今自分が携わっている仕事、ないしは活動の意義というものと向き合わざるを得なくなります。私自身もそうでした。
30年以上、自分の仕事の意味は何か、ということがよく分からないまま、ずっと新聞社で仕事を続けてきましたが、震災で何となく分かりました。自分の仕事は、読んでくれる読者の命そのものに深く関わっているんだということを、今回はっきりと自覚しました。
それで、先ほど説明した「いのちと地域を守る」というキャンペーンに取り組み始めたということです。同じように原点を見つめたことから生まれた思いは、2年5カ月経とうとしている今、全ての人々に必ず残っている。一人一人の胸の中で残っているはずだと私は信じています。そういうものを力にしていける社会、地域というのが、被災地である。私はそう受け止めています。

やっさん

東日本大震災の仮設住宅支援、復興起業家育成に関わってきました。大学では、震災復興を考える講座やワークショップを実施しています。ここでは、復興ボランティア学講座の記録をまてめて、公開しています。

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やっさん

東日本大震災の仮設住宅支援や復興起業家育成に10年間携わってきました。現在は震災復興に関する講座やワークショップを実施しています。ここでは、復興ボランティア学講座の記録をまとめて公開しています。

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